通勤地獄からの解放の日は近い?MaaSへの期待とは

2019.05.22

首都圏や大阪など大都市で働く会社員にとって、なにより苦痛なのは朝夕の通勤ラッシュ。身動きできないほどの混雑では、通勤時間を利用して本を読んだり勉強したりするのも難しい。ひたすら、早く目的の駅に到着することを願いつつ、ひたすら耐えるしかありません。

東京都も「時差ビズ」と称して、時差出勤を進める取り組みを行っていますが、社会全体に定着させるには、まだまだ時間がかかりそう。

そうしたなか、近年MaaS(マース)というサービスが注目を浴びるようになりました。

MaaSとは、自動車やバス、電車などさまざまな交通手段をAI(人工知能)やITなどを使って一つに統合することで、実現すると利用者はスムーズに交通手段を乗り換えながら目的地に向かうことができ、料金も一括して支払えばよくなります。
 
現在はまだ、実証実験が行われている段階ですが、果たしてMaaSは日本の通勤事情を変えるのでしょうか。

首都圏の通勤時間は長く、ストレスが

まず、現在の日本の通勤事情をみてみましょう。

総務省が5年ごとに実施している社会生活基本調査(2016年)によると、通勤・通学時間の全国平均は1時間19分。

このうち、仕事をしている男性に限ってみると、通勤時間が最も長い都道府県は神川県の1時間16分。次いで千葉、埼玉、東京都と首都圏がずらり。その後は奈良、大阪、兵庫と関西圏が並びます。女性もほぼ似た傾向です。

ちなみに男性で最も短いのは、島根・佐賀・鹿児島の35分、女性は島根県の26分でした。

もう一つ、通勤時間に関する調査を紹介。2015年9月に不動産・住宅サイトのスーモ(リクルート)が実施したアンケート調査の結果です。

首都圏・中京圏・近畿圏に住む20歳から59歳の男女に通勤にかかるストレスが何%か尋ねたところ、通勤時間が長くなるほどストレスが高いと感じる人が多く、通勤に45分から1時間半未満の人はストレスは50%だと答え、1時間半以上2時間未満の人は65%と答えたそうです。

つまり、都市部に住む会社員の多くは毎朝、ストレスやイライラを抱えながら、長時間通勤電車に揺られているのですね。

次世代交通を担うMaaSとは

では、通勤時間を快適にしてくれるかもしれないMaaSとはなんでしょうか。

総務省によると、電車やバス、タクシーのほかカーシェアリングなどの交通手段を統合し、どの組み合わせで行けば最適なのかを検索し、予約・決済まで行うサービスがMaaSです。

よく、パソコンやスマホで乗換検索ができるサイトやアプリがありますが、それを検索だけでなく予約・決済までできるイメージですね。

これが実現すれば、バスやタクシーもどこに利用者がいるのかわかるので、機動的、効率的に運行することができます。利用者も自分にとって最適な交通手段を選ぶことができるので、スムーズな乗り換えでストレスも軽減するでしょう。

さらに、今後は自動運転車を使った公共交通サービスの実用化も期待できます。そして、利用者の膨大なデータは蓄積され、それを輸送サービス会社が自由に利用できるようになります。

そうなると、各輸送会社はデータに基づいて、バス路線や鉄道の路線を効率化する一方で、乗り合いの自動運転車を使った送迎などができるようになります。運営の効率化と個人のニーズに対応した事業の拡大によって、公共交通機関の運賃の値下げも可能になるかもしれません。

交通手段の多様化と個人のニーズに合わせた運用により、交通渋滞や満員電車の解消も図れる。これが、総務省が描く未来図のようです。

MaaS実現に向けた取り組みも進む

MaaSに実現に向けた取り組みは既に具体化しています。

例えばAIを使った公共交通システムの開発に取り組んでいる「未来シェア」(北海道函館市)。公立はこだて未来大学発のベンチャー企業です。

未来シェアが開発したのは、時刻表やルートを設定せず、客の要望に応じて乗り合いのタクシーやバスを運行するシステム。客からの予約が入ると、AIが最適なコースを設定し、臨機応変にタクシーやバスを運行させます。このシステムを使った住宅街や観光地での公共交通サービスの開発に各社も乗り出しています。

その1つが東急電鉄で、2018年秋に未来シェアなどと共同の実証実験を横浜市のたまプラーザ駅周辺で実施。

このときは、駅北側の住宅街が対象でしたが、小型電気自動車や予約に応じて運行するバス、カーシェリングに加え、東京の渋谷駅まで運行するハイグレード通勤バスを組み合わせ、利便性の向上や住民の満足度などについて調査しました。

なかでも、通勤バスはWi-Fiを登載し、ゆったりとした座席で仕事をしながら渋谷まで行くことができます。毎日、こんなバスで出勤できたら、朝から快適でしょうね。

通勤革命に乗り遅れるな

AIやICTの普及やビッグデータの活用によって、公共交通システムが変わろうとしています。近い将来、個人のニーズに合わせた臨機応変で効率的な輸送が可能になることで、通勤ラッシュも大幅に緩和されることでしょう。

そして、そこにはビジネスチャンスがあるかもしれません。

今はまだ満員電車に揺られ、ストレスを抱えているみなさん。駅につくまでの時間、MaaSによって通勤事情がどのように変わるか、夢想してみませんか。もしかすると、素晴らしいビジネスの種を見つけられるかもしれません。

(画像は写真ACより)

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高野勤一
高野勤一