高度プロフェッショナルは働き方に改革をもたらすか

2019.05.20

2019年4月から「働き方改革」がスタートしたのに合わせ、高度プロフェッショナル(高プロ)制度も導入が可能になりました。

昨年、法律が成立するまでは「残業ゼロ法案」「長時間労働を助長し、過労死を招く」などと厳しい批判を受けましたが、導入時にはあまり大きな反対の声があがらなかったような気がします。

それは賛成の声についても同じで、導入を歓迎し期待する声は聞かれず、積極的な導入を表明する企業も現れませんでした。

高プロ制度の目的は何か、そして、制度が私たちの働き方にどのような影響を及ぼすのか、改めて考えてみました。

導入には労使委員会設置が必要

高度プロフェッショナル制度とは、高い専門知識を持ち、専門的な職務に就き、一定以上の年収を受け取る人に適用される制度。本人が同意し、年間104日以上の休日確保や健康管理などを行えば、会社は残業代を払う必要がありません。

これが「残業ゼロ法案」と呼ばれたゆえんですが、実際の導入にはさまざまな制約があり、簡単に導入できないのも事実です。

導入にはまず、労使委員会の設置と決議が必要となります。労使委員会は経営側、労働者側の委員で構成され、労働者側委員が半数以上いなければなりません。

委員会では、対象業務や対象者の範囲のほか、健康管理の方法や対象者の同意の撤回方法など必要な事項を定め、導入を決議。決議内容は労働基準監督署に届けなくてはなりません。これによって、制度導入が可能になります。

ちなみに、労使委員会は少なくとも半年に1回開催することが必要で、決議の有効期限について厚労省は「1年が望ましい」としています。

企業によっては手続きの煩雑さが導入のハードルになるかもしれません。

高プロの対象となる労働者は

高度プロフェッショナル制度の対象となるのは、高度な専門知識を持つ研究職、コンサルタント、証券会社のディ―ラー、トレーダー、ファウンドマネージャーといった職種で、年収1075万円以上の人たちです。

当てはまったからといって、自動的に適用されるのではなく、高プロとして処遇するには本人の同意が必要で、一度同意しても撤回することができます。

そして、本人が同意すれば、残業代が支払われない働き方が始まるのですが、だからといって「会社は労働時間の管理をしなくてもいい」というわけではありません。

タイムカードやコンピュータのログイン記録などで労働時間を把握しなければならず、休日も確保しなくてはなりません。

もちろん、長時間労働が続いているようであれば、健康診断の実施や適切な指導も必要です。

こうしてみると、かなり煩雑な制度に思えますが、企業と労働者にとってのメリットはどこにあるのでしょうか。

企業の狙いと働く側のメリットとは

企業側からいえば、メリットの一つは残業代の削減です。年収1000万円を超えるような社員が残業をすれば、時間外手当だけでかなりの額になります。

時間外手当がなくなれば、残業代未当てに時間を引き延ばす人もいなくなるでしょう。効率的な働き方も期待できます。

もう一つは、というより、企業としてはこちらの方が重要だと思うですが、一般社員とは別の処遇ができることです。

多くの企業が導入している年功序列型の賃金制度では、特定の社員だけを突出した賃金で雇用するのは難しいのです。

最近は人事評価をより大きく反映させる賃金制度も定着し、評価による賃金格差が広がってきていますが、企業としては引き抜きを防ぐため、優秀な社員はより高い賃金で処遇したいのが本音。

そこで高プロ制度を導入すれば、優秀な社員のための特別な賃金制度を設計できます。    

労働者側のメリットとしては、成果さえだせばいいのですから、自分のペースで仕事ができます。うまくいくと、育児や介護の都合に合わせて仕事ができるようになるかもしれません。

実際は、顧客の都合や成果を出す期限もあるので、そう簡単なことではないでしょうが、会社の就業時間に縛られない柔軟な働き方ができる可能性はあります。

高プロ市場は形成されるか

こうしてみると、会社にとっても働く側にとっても、メリットがあるような気がしますが、もちろんデメリットもあります。

もちろん1つは長時間労働の危険性。でも、もっと難しい問題は報酬の水準です。

「労働時間にとらわれない働き方」ということは、報酬を決めるのは本人の知識、経験と成果しかありません。つまり究極の能力・成果主義賃金ということです。

 そうした能力や成果をどのように評価し、報酬に反映させるのか、これはかなり難しい問題です。

最初はおそらく、社内の同じような仕事をしている社員との比較で、3割増しだとか5割増しだとか、という形で報酬額は決められることでしょう。

しかし、業界内に高プロが増えていけば、会社の枠を超えた相場が形成されていくはずです。つまり、この程度の能力・成果があるのなら、報酬はいくらぐらいという目安ができるのです。

そうなると、相場に満たない報酬しか支払えない企業からは人材が流出します。やがて、高プロに特化した人材市場が生まれるでしょう。

実際のところ、そこまで高度プロフェッショナル制度が普及するかどうかは、わかりませんが、人材流動化の引き金となる可能性はあります。

まとめ・制度の今後に注目を

「一部の社員を対象にした制度だから、高度プロフェッショナル制度なんて関係ない」と思っている人や中小企業は多いかもしれません。

しかし一部の業界や大企業では、こうした働き方をする人材を必要としていることは事実ですし、今は導入する企業が少なくても、運用の工夫によってスムーズに定着させる企業がいずれ出てくるでしょう。

そうなると、対象の拡大も視野に入ってきます。高プロの範囲が広がると、対象外の社員の働き方や処遇にも影響を及ぼし始めるでしょう。「高プロと一般社員の待遇に格差があるのは当然」という世の中になるかもしれません。

長時間労働の危険性ばかり指摘される高プロ制度ですが、今後、日本の働き方を変えていくのかどうか、にも注目していくことが必要でしょう。

画像は写真ACより

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高野勤一
高野勤一