パートの処遇はどうなる?同一労働同一賃金とは

2019.05.16

働き方改革が2019年4月から始まりました。これまで長く続いてきた日本の労働環境を大幅に見直す取り組みです。

まずは時間外労働の規制強化や有給休暇の取得義務化などが行われ、企業も働く人たちも効率的な働き方を考えなくてはならなくなりました。休みが増えることは良いことですが、今までと同じように働いていては、仕事は進みません。

そして、1年遅れの2020年4月から施行されるのが、「同一労働同一賃金」です(中小企業は21年4月から)。しかし、まだイメージが湧かないという人が多いのではないでしょうか。

そこで、同一労働同一賃金になると人事・賃金制度はどう変わるのか、少し考えてみましょう。

同じ仕事なら賃金も同じ

「君は正社員並みによく働いてくれるなあ」。アルバイトやパートの従業員に対する、こんな褒め言葉をよく聞きますよね。

逆に「おまえは正社員なのに、アルバイト並みの仕事しかできないのか」という叱責も、ままありますね。パワハラになる恐れがありますが。

アルバイトやパートの従業員が本当に正社員と同等に働いているのなら、賃金も同等であるべきだ。簡単に言うと、これが同一労働同一賃金です。

多くの企業では、アルバイトやパートと正社員の間に賃金格差を設けているはずです。「同一労働同一賃金」がルール化されると、この格差の妥当性が問われることになります。

だからといって、正社員とアルバイト・パートの給料を同じにしなくてはならない、という意味ではありません。

たとえば基本給について。厚生労働省のガイドラインにはこうあります。「実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない」。

つまり、正社員とパート・アルバイトの間に賃金の格差がある場合は、その違いを明確にしたうえで、違いに応じた賃金を支給しなければならないということなのです。

不合理な格差に当たるのは

「同一労働同一賃金」とは、言い換えれば「不合理な待遇の格差」をつけないということです。

では、「不合理な格差」とはどのようなものなのか、厚生労働省のガイドラインをもう少し見てみましょう。ガイドラインでは、基本給、昇給、賞与、各種手当のほか、教育訓練や福利厚生についても触れています。

基本給の考え方として「違いがなければ同一、違いがあれば違いに応じた」とありましたが、昇給、賞与、手当についても考え方は同様です。

業務に習熟すれば正社員と同様に昇給させ、業績への貢献があれば賞与も支給しなければならない。もちろん、手当も同様で同じ業務をしているのなら同額の手当を支給しなくてはなりません。

ですから、アルバイト・パートへの賞与を一律「金一封」にするのは、ガイドラインに反する可能性が高いですし、通勤費は「給与込み」ではなく別に支給しなければなりません。

もし、就業規則で定める時間外手当の額が法定割合の25%を超えているのであれば、パート・アルバイトにも同じ割増率で手当を支給する必要があります。

もちろん、福利厚生制度は分け隔てなく利用できるようにし、教育訓練も業務に応じて参加できるようにしなければなりません。

ちなみにガイドラインには退職金や住宅手当、家族手当などについての記載はありませんが、「不合理な待遇差の解消等が求められる」となっています。

職務内容や能力評価の基準を明確に

同一労働同一賃金に対応するために、人事制度の大幅な見直しが必要な企業もあるでしょう。

まず、大切なのは職務内容の明確化と能力評価の基準です。最近は、成果主義・能力主義の賃金制度を導入する企業が増えているので、職務内容と能力評価基準を明示している企業も多いでしょう。しかし、パートやアルバイトについては、どうでしょうか。

ファーストフード店や飲食店のアルバイトでは、接客方法や調理の技能などに応じた昇給テーブルがあることが知られていますが、これからは同様のものを、どの企業も備えなければなりません。

そして、正社員とアルバイト・パートの間に待遇の差がある場合、その差について合理的な説明が必要になります。

「正社員は厳しい採用試験を通り、将来的には幹部となることを期待されているのだから、差がつくのは当然だ」と思う人もいるでしょう。しかし、その説明ではおそらく不十分です。

具体的に、「正社員にはアルバイトやパートとは違った役割が与えられ、その能力や成果によって賃金は決まる」「正社員には転勤や配置転換があり、職務について幅広い知識や経験がある」といった理由がなければ、合理的とはいえません。

まとめ・制度導入を機に人事制度の再点検を

同一労働同一賃金への対応は、ただ単にアルバイトやパートの待遇を正社員に合わせればいい、というものではありません。

そもそも、そんなことをすれば、会社は人件費の負担に耐えられなくなってしまいます。

必要なのは、誰が見ても明確な職務内容と能力の評価基準、それを賃金に反映させるシステムです。それさえあれば、待遇を同じにすべきもの、差をつけるのが当然なものが見えてきます。

今一度、そうした観点から会社の人事制度を見直してみましょう。それはきっと、公正で納得性の高い賃金制度構築への第一歩となるはずです。

画像は写真ACより

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高野勤一
高野勤一